私は昔から、知らない土地の空気感や
その土地ならではの料理、考え方に触れることが好きでした。
大学生になり、車の免許を取ってからは行動範囲が爆発的に広がり、
友人と「今から千葉一周しようぜ!」とオールで下道を走り続けるような、移動そのものを楽しむ日々を過ごしていました。

大学生活後半、一年留年を経験した私を待っていたのは
友人たちが社会人になり、遊び相手がいなくなるという現実でした。
「それなら一人で旅に出よう」と考えたのですが、ここで一つ問題に直面します。
私は、自分を「意思の弱い人間」だと思っていました。
普通に旅に出ても疲れたらすぐにスマホで楽な道を探して、目的地にも行かずに帰ってしまうだろう。
そう確信していたからこそ、自分に「逃げ場のないルール」を課すことにしました。
「目的地へ行くのではなく、目的地から帰るしかない状況を作る」
私は草津行きの高速バスに乗り込み、千葉県内の自宅を目指して歩き出すという「背水の陣」を敷いたのです。
しかし、ただ歩くだけでは面白くない。私は以下の厳しい縛りを自分に課しました。

・スマホのナビ使用禁止
頼れるのは、観光案内所や道の駅にあるローカルマップ、道路の青看板のみ。
現在地が青い点で表示されない不安は想像以上でしたが、その分、景色や標識を必死に読み取る力が研ぎ澄まされました。
・電子決済の使用禁止
支払いはすべて現金のみ。
キャッシュレスになれた時代では、財布の小銭を数える時間さえも「旅をしている」という実感に変わりました。
・基本は徒歩(ローカルな移動のみ可)
自分の足で進むことを原則とし、どうしてもというときだけ私鉄やローカルバス、
あるいはヒッチハイクを許可しました。

草津温泉を出発し、埼玉県の東松山まで
2日間で総移動距離は120km、そのうち徒歩だけで約90kmを走破しました。
しかし、2日目の終わりに限界が訪れます。
知識も準備も不足していた私の足は、巨大な水膨れでパンパンに膨れ上がり、
激痛で一歩も動けなくなってしまったのです。
「精神力でカバーする」という目論見は、物理的な負傷によってあえなく打ち砕かれてしまいました。
結局、千葉までたどり着くことはできませんでしたが、
スマホを封印して歩いたあの2日間は、
これまでの人生で最も「自分の足で生きている」と感じた時間でした。
効率や便利さを追求する今の仕事とは正反対の体験でしたが、
あえて不便な状況に身を置いてみたことで、痛感したことがあります。
それは、「高い志や気合も、万全な準備と知識がなければ形にできない」ということです。
当時は「意思の弱さを根性でカバーしよう」と意気込んでいましたが、
長距離を歩くための装備やペース配分といった
「基本的な準備」を怠ったために、身体が先に悲鳴を上げてしまいました。
仕事においても、難しい課題に挑戦する情熱はもちろん大切ですが
それを支えるための知識を蓄え、不足の事態に備えて準備しておくことの重要性を
パンパンに膨れ上がった足の裏が教えてくれた気がします。
もし皆さんの中に、これから新しい何かに挑戦しようとしている方がいれば、
ぜひ私の失敗を思い出してください。
情熱と同じくらい、あるいはそれ以上に「準備」を整えること。
それが、目的地にたどり着くための唯一の近道です。
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